Versefactory.AI — Research Whitepaper

ホワイトペーパー

Updated: 2026-01-09
Overview Company
軽量クエリDB / 擬似AI(Pseudo-AI) アーキテクチャ ― 構造共有・ビット並列・決定論的探索による、LLM非依存の柔軟応答エンジン ― ホワイトペーパー(研究事業) 株式会社バースファクトリー(Versefactory, Inc.) v1.1 / 2026-01-09 v1.1 更新点:Lazy-load 2.0(Edge-Computed Hash × クラウド辞書)を追記し、整合性・実現性(I/O・キャッシュ・衝突・統治)の検討を追加。 本書は研究構想および技術的方向性の共有を目的とした情報提供資料であり、特定の性能・可用性・権利帰属を保証するものではありません。

目次

  • 1. 要旨(Executive Summary)
  • 2. 背景と問題設定
  • 3. 基本概念:AIとデータベースの再定義
  • 4. 提案:軽量クエリDB / 擬似AI(Pseudo-AI Database)
  • 5. コア技術
  • 5.1 曖昧クエリ正規化(入力空間の圧縮)
  • 5.2 ビット並列・分岐レス推論(bitset / popcount)
  • 5.3 近傍探索(指紋化 + 候補抽出 + スコア補正)
  • 5.4 出力合成(テンプレ + 条件分岐 + 根拠提示)
  • 6. データ構造:構造共有・Index/Payload分離・Lazy-load
  • 7. 実行環境:WASMランタイムと並列化
  • 8. ビルド(生成)パイプラインと蒸留の位置づけ
  • 9. 評価方法(性能・品質・安全性)
  • 10. 適用領域とユースケース
  • 11. 研究開発ロードマップ
  • 12. 結論
  • 付録A. 参考用スキーマ(案)
  • 付録B. 用語集

1. 要旨(Executive Summary)

本書は、株式会社バースファクトリーの研究事業として、「軽量で極めて柔軟なクエリを持つデータベース」および「準AI / 擬似AI(Pseudo-AI)」の概念と技術的骨格を提示するものである。 提案するシステムは、機械学習モデル(LLMを含む)を実行時に使用しない。一方で、人間が自然言語で行う曖昧な問いに対し、AIに類似した応答(意図推定・候補提示・根拠提示・回答合成)を、決定論的な計算のみで実現する。 本研究の中核は次の3点に集約される。

  • 入力空間の圧縮:曖昧な自然言語クエリを、正規化・同義語変換・クエリ型への写像によって「探索しやすい形」に折り畳む。
  • 低計算量の探索:bitset / popcount を中心とした分岐レス推論と、指紋化(例:SimHash)を用いた近傍探索により、CPU上で高速にTop-K候補を得る。
  • 軽量な生成:回答を「部品(テンプレ・注意・例外・根拠)」として保持し、条件分岐と合成で文章化することで、生成モデルなしに説明力を確保する。

また、大規模知識の取り扱いにおいては、Index/Payload分離とLazy-load、ならびに内容アドレス(ハッシュ)による構造共有を採用し、数十MBから数百MB規模の知識を、ブラウザ等のクライアント環境に段階的に蓄積させる。 本書は、(1)思想の固定、(2)技術の骨格提示、(3)実装と権利化(特許)に向けた論点整理を目的としており、以後の論文・特許申請・開発設計・実装指示の共通土台となる。

2. 背景と問題設定

現代のAI(特に大規模言語モデル)は、曖昧な自然言語を扱える点で強力である一方、推論コスト・運用コスト・規制対応・機密性の面で課題が残る。

  • 計算コスト:GPU依存、推論の都度コストが発生し、利用回数に比例して費用が増大する。
  • 運用制約:オンライン前提、レイテンシや障害に影響される。
  • 統制:出力の非決定性、説明可能性の不足、監査や再現性の難しさ。
  • データ統治:機密情報・個人情報を扱う領域では、外部API依存が難しい。

一方で、実務の問い合わせ・ナレッジ検索・手順案内といった用途では、入力の多様性は大きく見えても、意味的には反復パターンが多い。すなわち「曖昧さに耐える」ことは重要だが、必ずしも「汎用知能」までは必要ではないケースが多い。 本研究はこのギャップに着目し、AIの代替ではなく、AIが担っている役割の一部(曖昧クエリの吸収と柔軟応答)を、より軽量・決定論的な構造で再構成する。

3. 基本概念:AIとデータベースの再定義

本研究では、AIとデータベースを次のように捉え直す。 データベースとは「クエリと結果の対応関係(写像)の集合」である。 AIとは「曖昧なクエリに耐える巨大な写像を、近似的に実現する仕組み」である。 この見方に立てば、AIとDBの差は本質的には「曖昧さ耐性」である。入力(クエリ)の曖昧さを吸収し、適切な結果を返すことができるなら、その振る舞いはAIに類似する。 従来DBは厳密なクエリを前提とし、AIは曖昧なクエリを扱う。擬似AIはこの間を埋める:曖昧なクエリを、設計により「探索しやすい形」に変形し、決定論的探索で解を得る。

4. 提案:軽量クエリDB / 擬似AI(Pseudo-AI Database)

本書では、提案するアーキテクチャを「Pseudo-AI Database(PADB)」と呼ぶ。PADBは、入力(in)と出力(out)の関係を、圧縮・共有・索引化されたデータ構造として保持し、実行時は軽量な探索と合成のみで応答する。

4.1 設計原則

  • 決定論性:同一入力に対して同一出力(または同一候補集合)を返す。
  • 低計算量:実行時にGPUや重い行列演算を必要としない。
  • 説明可能性:候補・スコア・根拠をユーザに提示できる。
  • 段階的知識:Index/Payload分離とLazy-loadで、知識を必要に応じて拡張する。
  • 構造共有:共通部分(辞書・テンプレ・定型句・ルール)を共有し、差分で拡張する。

4.2 全体アーキテクチャ

PADBは大きく「ランタイム(WASM等)」「データ(パック)」「ビルド(生成)工程」に分かれる。 【図1:PADBの処理フロー(概念)】

User Query
   
Normalize
   
Route/bitset
   
Retrieve +  + 
   
Assemble +  + 
   

Response(即答 + 追記で濃くする)

5. コア技術

5.1 曖昧クエリ正規化(入力空間の圧縮)

擬似AIの性能は、検索アルゴリズム以上に「正規化」に依存する。曖昧さの多くは、表記ゆれ・誤字・同義語・冗長表現に起因するためである。 本研究では、正規化を「入力空間の設計的圧縮」とみなし、次を段階的に適用する。

  • 文字正規化:全半角、大小、記号、連続空白、数字表記などを統一する。
  • 同義語正規化:ドメイン辞書により、語彙の揺れを代表語へ写像する(例:サインイン=ログイン)。
  • クエリ型推定:定義/手順/比較/障害/規程など、有限個のクエリ型に写像し、探索空間を狭める。

この工程により、自由文の多様性を抑えつつ、探索と合成が当たりやすい表現へ変換する。

5.2 ビット並列・分岐レス推論(bitset / popcount)

ニューラルネットの文脈では、ゲートや活性を連続値(float等)で表現することが多い。しかし多くの判定・ルール適用は、本質的には真偽(1ビット)で十分である。 本研究では、クエリの特徴をbitsetとして表現し、ルールをビットマスクとして評価する。評価は分岐(if)を避け、ビット演算とpopcount(ビット数計数)で行う。これによりCPUワード幅で並列に多数の条件を処理でき、WASM上でも高速化しやすい。

/
feature: u64[]  // クエリ特徴bitset
must:    u64[]  // 必須語マスク
forbid:  u64[]  // 禁止語マスク

ok_must   = ((feature & must) == must)     // 全部含む
ok_forbid = ((feature & forbid) == 0)      // 禁止語を含まない
score     = popcount(feature & boostMask)  // 追加スコア

この仕組みは、(a)意図推定、(b)パック選定(ルーティング)、(c)候補スコア補正、といった内部推論に適用できる。

5.3 近傍探索(指紋化 + 候補抽出 + スコア補正)

PADBは、クエリと知識エントリの「距離」を軽量に近似し、Top-K候補を返す。重いベクトル計算ではなく、指紋化(例:SimHash)と候補抽出(LSH的バケット)により、計算量を抑える。

  • 指紋化:正規化されたテキストから、64bitまたは128bit程度の指紋を生成する。
  • 候補抽出:指紋の一部をキーとしてバケット化し、近い候補のみを収集する(全件比較を避ける)。
  • スコア補正:intent一致、必須語一致、否定語、数字/固有名詞一致などでスコアを調整する。

この構成により、曖昧クエリでも「それっぽい候補」が安定して上位に出る。さらに候補集合を提示することで、ユーザに探索余地と納得感を与える。

5.4 出力合成(テンプレ + 条件分岐 + 根拠提示)

LLMのような逐語生成を行わずとも、回答を部品化し合成することで、実用上十分な説明力を得られる。回答は一般に、結論・手順・注意・例外・参照(根拠)から構成できる。

  • テンプレ合成:定型文 + スロット(変数)埋め込みで文章化する。
  • 条件分岐:ユーザ条件(法人/個人、地域、プラン等)により、注意や例外を切り替える。
  • 根拠提示:参照エントリID、出典段落、関連候補などを表示可能にする(Explainモード)。

「即答(暫定)→ 追記で濃くする」という表示戦略により、体感レイテンシを小さくしつつ、ユーザの不安を抑える。

6. データ構造:構造共有・Index/Payload分離・Lazy-load

6.1 構造共有(内容アドレス化)

大規模知識をそのまま文章として保持すると重複が多く、更新差分も大きくなる。PADBでは、回答部品・定型句・辞書エントリ・ルールを小さなノードに分割し、内容ハッシュをIDとして参照する(内容アドレス化)。

  • 同一内容は同一IDになるため、重複が自然に排除される。
  • 差分更新では、変更ノードのみ追加すればよい。
  • 複数のパック間で共通部品(辞書・テンプレ等)を共有できる。

6.2 Index/Payload分離

I/OとCPUのバランスを取る上で重要なのは、探索に必要な情報(Index)と、表示に必要な情報(Payload)を分離することである。

  • Index層:指紋、バケット、intent、bitsetマスク、オフセット等(小さく、常駐させる)。
  • Payload層:回答本文、手順詳細、根拠テキスト、例外一覧等(必要時に取得)。

IndexのみでTop-K候補を確定し、上位数件のPayloadのみを遅延取得することで、初期応答を高速化できる。

6.3 パック(Pack)とLazy-load

知識は用途・ドメインごとにパック化し、ブラウザ等のクライアントに段階的に蓄積させる。

  • Core Pack:正規化辞書、ルーティング、汎用エントリ(数MB)。
  • Domain Pack:特定領域のエントリ群(数十MB〜数百MB)。
  • 差分配布:Packはバージョン管理し、更新時は差分の分配布可能にする。

パックは静的ファイルとして配布可能であり、Service WorkerやIndexedDB等のクライアント機構により、オフライン動作や再訪時ゼロI/Oを実現できる。

6.4 クラウド辞書(CAS/KV/CDN)によるLazy-load 2.0(Edge-Computed Hash)

Lazy-loadをさらに拡張し、巨大な辞書(回答部品、根拠、長文手順等)をクラウド上のストレージ/CDNに配置しつつ、クライアント(エッジ)側で参照キーを決定論的に計算する方式を導入する。本方式ではクラウド側が計算を担わず、Key→Object参照のみを提供するため、推論コストをI/Oへ置換できる。 鍵となるのは「セマンティックキー(意味ハッシュ)」である。セマンティックキーは、正規化済みクエリから特徴(bitset/指紋/意図・スロット)を生成し、固定長ビット列へ写像したもので、表記ゆれ・言い換えの差を吸収しつつ、近い問いが近いキーに写像されることを狙う。

  • エッジ計算:Normalize→Featurize→(必要ならRoute)→セマンティックキー生成。
  • クラウド辞書:セマンティックキー→候補ID集合(小さなIndex)、候補ID→Payload(本文/部品)の2層参照。
  • 二段階キー:近似キー(セマンティックキー)と完全キー(内容ハッシュ)を併用し、衝突と重複を実務的に扱う。
  • キャッシュ:Service Worker/IndexedDB等でホットなキーとPayloadを保持し、再訪時のI/Oをゼロに近づける。
  • フォールバック:ネットワーク不可時やミス時はローカルPackの範囲で応答し、体験の破綻を防ぐ。

セマンティックキーは完全一致ではなく近傍探索の入口として用いる。候補ID集合を取得した後、クライアント側で指紋距離・必須語・否定などを用いてTop-Kを確定し、必要なPayloadのみを追加取得する。これにより、I/Oは「少数の参照」に抑えつつ、曖昧さ耐性を維持できる。 運用上は、辞書オブジェクトの署名・バージョン管理・差分配布を前提とし、キー生成仕様と辞書内容の互換性を維持する。また、クエリ由来の参照パターンが機密となる領域では、テナント単位の鍵(例:HMAC)や顧客環境内配備により情報漏えい面の懸念を低減する。

7. 実行環境:WASMランタイムと並列化

PADBのランタイムは、WebAssembly(WASM)上での実行を主眼に設計する。目的は、クライアント環境での高速・安全・移植性の確保である。

7.1 ランタイムの責務

  • 正規化(Normalize):文字正規化、同義語変換、クエリ型推定。
  • 特徴抽出(Featurize):bitset生成、指紋生成。
  • ルーティング(Route):bitsetルールで対象パック/意図を推定。
  • 探索(Retrieve):候補抽出とTop-Kスコアリング。
  • 説明(Explain):候補スコア、根拠参照、内部状態の表示用データを生成。

7.2 並列化戦略(Worker / Threads)

マルチコア活用は、(a)パック横断探索の並列化、(b)候補スコアリングの並列化、(c)バックグラウンドでのプリフェッチ/解凍、に効果がある。

  • 基本:Web Workerにより並列実行し、UIスレッドの負荷を最小化する(広い互換性)。
  • 拡張:実行環境が許す場合、共有メモリ(SharedArrayBuffer等)とWASMスレッドを用いて高速化する。
  • フォールバック:共有メモリが使えない環境でも動作する設計を維持する。

7.3 I/O設計(スループットと体感)

クライアント実行では、I/O(ネットワーク/ストレージ)とCPUのバランスが支配的となる。PADBはIndex/Payload分離とLazy-loadにより、初期I/OをIndexに限定し、PayloadはTop-K確定後に必要分のみ取得する。 さらに、(1)圧縮(brotli等)、(2)チャンク分割、(3)キャッシュ、(4)差分更新により、I/Oを抑制し、体感レイテンシを最小化する。 Lazy-load 2.0(6.4)では、Indexはクライアントでセマンティックキーを生成し、候補ID集合やPayloadをクラウド辞書(CDN/KV/オブジェクトストレージ)から参照する。このとき支配要因は「往復回数」と「キャッシュヒット率」であり、Top-K確定前に大きなPayloadを取らない設計、バッチ取得、ホットキーの事前取得により体感を安定させる。

7.4 エッジ計算×クラウド辞書:体感性能の設計要点

エッジ計算×クラウド辞書は、クラウド推論を避けながら大規模知識を扱うためのアーキテクチャである。設計上は、(a)キー解決(候補ID取得)と(b)Payload取得を分離し、(a)のI/Oを極小化して即答を実現し、(b)は必要に応じて遅延させる。

  • 参照回数を抑える:候補ID集合は1オブジェクト(または少数)に束ね、Top-KのPayloadもまとめて取得できる形式を優先する。
  • キャッシュを前提にする:ホットなキー/候補ID集合/上位Payloadを優先的に保持し、P95の体感を改善する。
  • 互換性を管理する:キー生成仕様(Normalize/Featurize/Route)と辞書バージョンを結合し、参照先の不整合を防ぐ。
  • 安全性を担保する:辞書オブジェクトは署名・整合性検証し、汚染(Poisoning)や改ざんを検出可能にする。

8. ビルド(生成)パイプラインと蒸留の位置づけ

PADBは実行時に学習を行わない代わりに、ビルド時に「in/out写像(クエリと結果の対応)」を高密度に構築する。したがって、品質と効率を左右するのはビルド工程である。

8.1 ビルド工程(概念)

  • Ingest:原資料(FAQ、規程、マニュアル、ログ等)を取り込み、単位(セクション/段落/手順)へ分割する。
  • Normalize Spec:ドメイン辞書(同義語、略語、固有名詞)とクエリ型を定義する。
  • Generate:代表クエリ(canonical)と、その言い換え集合を生成し、意図(intent)とスロット(変数)を付与する。
  • Index/Pack:指紋、bitsetルール、参照構造を生成し、Index/Payload分離のパックとして出力する。
  • Verify:テストクエリに対する回帰、カバレッジ(穴)検出、サイズ/速度制約チェックを行う。
  • Publish:署名・バージョン付け・差分生成により配布可能な形にする。

8.2 蒸留の位置づけ:モデル学習ではなく「写像密度の向上」

近年、強い教師(大規模モデル等)から高品質な出力を得て、より軽い仕組みに知識を移す「蒸留」という考え方が広まっている。PADBでは蒸留を、学生モデルの学習ではなく、in/out写像(クエリ集合と応答部品)の生成に用いる。

  • 教師の役割:代表クエリから、言い換え群・意図ラベル・スロット抽出・回答部品化を生成する。
  • PADB側:生成されたin/outを重複排除し、構造共有してパックへコンパイルする。
  • 経験蒸留(トレース蒸留):実運用で観測されたクエリと採用回答の対を匿名化・監査可能な形で取り込み、写像(in/out)を増補する。これは『過去に使われたクエリと回答の再利用』であり、推論コストをストレージ参照へ置換する。
  • 実行時:推論は検索と合成のみで、教師・モデルは不要(コスト・規制・再現性の観点で有利)。

8.3 コンプライアンスとデータ統治(方針)

蒸留や生成を用いる場合、利用規約・ライセンス・機密情報の扱いが重要となる。PADBの研究事業では、(a)権利・規約に適合する生成手段の選択、(b)顧客データの隔離(顧客環境内での生成を含む)、(c)生成物の監査可能性(出典追跡)を前提とする。

9. 評価方法(性能・品質・安全性)

PADBは「汎用知能」ではなく、用途に対する実用性能を評価する。評価は主として、速度・サイズ・再現性・カバレッジ・説明性で行う。

9.1 性能指標(例)

  • 初期応答(P50/P95):入力から暫定回答までのレイテンシ。
  • Top-K確定時間:Index探索で候補集合が確定するまで。
  • Payload取得時間:上位候補の詳細取得に要する追加時間。
  • メモリ常駐量:Index常駐に必要なメモリ。
  • パックサイズ:Core/Domainパックの総量、差分更新量。
  • キー解決レイテンシ(P50/P95):セマンティックキーから候補ID集合(小Index)を取得するまで。
  • キャッシュ/CDNヒット率:IndexおよびPayloadのヒット率(オフライン時はローカルヒット率)。
  • リクエスト数/クエリ:1クエリあたりのネットワーク往復回数(候補ID取得 + Payload取得)。
  • 転送量/クエリ:平均および分位(P50/P95)の送受信バイト数。

9.2 品質指標(例)

  • 命中率:テストクエリに対し、正解がTop-Kに含まれる割合。
  • 頑健性:誤字・省略・言い換え・否定表現に対する性能低下。
  • 説明可能性:根拠提示の有用性(人手評価)、再現性(同一入力で同一結果)。
  • カバレッジ:意図(intent)×スロット空間の穴の検出と改善速度。

9.3 安全性とガードレール(例)

実行時に学習を行わない一方で、誤った知識(古い規程、誤記)を保持すれば誤応答となる。したがって、(1)バージョン管理、(2)出典追跡、(3)回帰テスト、(4)更新フローが重要となる。

9.4 整合性・実現性の検討(Lazy-load 2.0を含む)

本節では、提案構造が「決定論」「軽量」「柔軟」「説明可能」という設計原則と整合し、現実的なI/O・運用条件の下で実現可能であるかを確認する。

整合性(コンセプト面) ・AI様応答は、(a)入力正規化、(b)近傍探索、(c)テンプレ合成という決定論的処理の合成として定義される。クラウド辞書の導入は(b)(c)の参照先を拡張するだけであり、学習や確率的生成を導入しない。 ・蒸留(8.2)はモデル圧縮ではなく写像密度の向上であり、経験蒸留(実クエリ/採用回答の再利用)も同一の枠組みに収まる。

実現性(性能・I/O面) ・エッジ側計算はbitset/指紋/キー生成が中心で、CPUのみで十分実装可能である。支配要因はI/Oであり、Index/Payload分離とTop-K確定後取得により、初期転送量と往復回数を抑制できる。 ・クラウド辞書はAPI計算を必要とせず、CDN/オブジェクトストレージ等の参照で成立する。体感はキャッシュヒット率に依存するため、ホットキーの事前取得、候補ID集合の束ね、Payloadのバッチ取得を設計要件とする(7.4)。 ・オフライン/不達時はローカルPackへフォールバックすることで、機能の劣化はあっても破綻は避けられる。

リスクと緩和策(運用・安全性) ・キー衝突/誤参照:セマンティックキーは近似キーとして扱い、候補集合からローカル再スコアリングでTop-Kを確定する。内容ハッシュによる完全参照を併用する。 ・辞書汚染/改ざん:辞書オブジェクトの署名、バージョン固定、回帰テスト、出典追跡を必須とし、更新フローに監査を組み込む。 ・プライバシー:参照キーはクエリそのものではないが、推測可能性が残る。機密領域ではテナント単位の鍵(例:HMAC)や顧客環境内配備、暗号化保管を選択肢とする。

10. 適用領域とユースケース

PADBは、曖昧クエリ吸収と柔軟応答が必要だが、GPU/オンライン/非決定性が障害となる領域に適する。

  • 企業内ナレッジ:社内規程、オンボーディング、手順書、問い合わせ一次対応。
  • 製品サポート:FAQ、障害切り分け、手順案内(デバイス内完結)。
  • 規制・機密領域:医療/金融/官公庁等で、外部推論が難しいケース。
  • エッジ/IoT:回線が不安定、計算資源が限られる環境でのガイダンス。
  • 教育/学習:誤りや根拠を説明できる、決定論的な学習支援。

また、UIとして「即答 + 候補提示 + 根拠提示」を組み合わせることで、ユーザは探索の主導権を維持しつつ、AI的な支援体験を得られる。

11. 研究開発ロードマップ

11.1 フェーズ1:公開デモ(WASM擬似AIランタイム)

  • ブラウザ上で動作するPADBデモを公開する(LLM/GPU不要、決定論的)。
  • Core Pack + 1つのDomain Packで、具体的なユースケース(例:企業内ナレッジ)を成立させる。
  • Explainモードを備え、候補・根拠・内部状態を可視化する。
  • (拡張)Edge-Computed Hash × クラウド辞書(CDN/KV)によるLazy-load 2.0を試験導入し、キャッシュ戦略と体感レイテンシを評価する。

11.2 フェーズ2:ビルド/検証ツールの体系化

  • 原資料からパックを生成するビルド工程をCLI/SDK化する。
  • 蒸留(写像生成)・重複排除・構造共有・差分更新を自動化する。
  • 回帰試験・カバレッジ測定・安全ガードをパイプラインに組み込む。

11.3 フェーズ3:ライセンス提供

株式会社バースファクトリーは、本研究成果を「擬似AIランタイム + 生成/検証パイプライン」としてライセンス提供することを想定する。提供形態は、(a)クライアント組み込み、(b)オンプレ生成、(c)特定ドメインパック提供、等を含み得る。

12. 結論

本研究は、知性を「学習モデル」から切り離し、「クエリ-結果写像の設計と実装」として再構成する試みである。 PADBは、曖昧な自然言語クエリに対して、正規化・ビット並列推論・近傍探索・回答合成を組み合わせることで、軽量・決定論的・説明可能なAI様応答を実現する。 計算資源が貴重な時代において、CPUとI/Oを最適化し、必要な知識を段階的に持ち込む設計は、多くの領域で実用的価値を持つ。株式会社バースファクトリーは、本テーマを唯一の研究事業として継続し、デモ公開・論文化・特許化・実装の体系化へ展開する。

付録A. 参考用スキーマ(案)

本付録は理解補助のための例であり、実装は変更され得る。

Entry
{
  "id": "hash(payload)",                    // 内容ハッシュ(完全キー)
  "intent": "HOWTO",
  "aliases": ["ログインできない", "サインイン不可", "..."],
  "features": {
    "bitset_ref": "hash(bitset)",
    "fingerprint64": 1234567890,
    "semantic_key": "sk64-or-sk128-..."     // 近似キー(意味ハッシュ)
  },
  "answer_parts_ref": "hash(parts)",        // 構造共有された回答部品
  "payload_ref": {
    "local_offset": 1024,                  // ローカルPack内参照(任意)
    "cloud_object": "cas/<hash(payload)>"   // クラウド辞書参照(任意)
  },
  "signature": "sig(...)"                   // 署名(任意)
}
SemanticKeyIndex
{
  "semantic_key": "sk64-or-sk128-...",
  "candidates": [
    { "id": "hash(payload)", "score_hint": 0.92, "payload_ref": "cas/<hash(payload)>" },
    { "id": "hash(payload2)", "score_hint": 0.88, "payload_ref": "cas/<hash(payload2)>" }
  ],
  "version": "pack-vX",
  "signature": "sig(...)"
}

付録B. 用語集

PADB
Pseudo-AI Database。本書が提案する、軽量で柔軟なクエリ応答を実現するデータ構造/ランタイムの総称。
正規化(Normalize)
曖昧な自然言語入力を探索しやすい表現に変換する工程。
bitset
特徴や条件をビット集合として表現したもの。ビット演算で高速に判定できる。
popcount
ビット列に含まれる1の数を数える演算。スコア計算等に用いる。
指紋(Fingerprint)
テキスト等を短いビット列に要約した表現(例:SimHash)。
LSH/バケット
類似な指紋が同じ箱に入りやすいようにする候補抽出構造。
Index/Payload分離
探索に必要な最小情報(Index)と表示/詳細情報(Payload)を分離する設計。
Lazy-load
必要になった時点でデータを取得し、段階的に知識を拡張する方式。
クラウド辞書(Cloud Dictionary)
クラウド上に配置されたKey→Payload参照可能な辞書。CDN/KV/オブジェクトストレージ等で提供され、計算ではなく参照で知識を供給する。
セマンティックキー(Semantic Key)
正規化済みクエリから生成する固定長の近似キー(意味ハッシュ)。候補集合の参照キーとして用いる。
経験蒸留(Trace/Experience Distillation)
実運用で観測されたクエリと採用回答の対を匿名化・監査可能な形で取り込み、写像として蓄積・再利用すること。
CAS(Content-Addressable Storage)
内容ハッシュをキーとしてオブジェクトを格納する方式。重複排除と整合性検証に有利。
構造共有
共通部分を共有し差分のみ追加することで、サイズと更新コストを抑える方法。
蒸留(本書の用法)
モデル学習ではなく、in/out写像(クエリ/応答部品)の生成を効率化するために教師から高品質データを得ること。

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